Unbalanced Walk

パフォーマンス、シングルチャンネルビデオ(8分9秒)、2023年

山口はパリでの新生活をはじめてまもなく、自宅からシャトレ広場までの直線2kmの道のりを、指先に傘を乗せてバランスをとりながら歩くパフォーマンスを行った。この行為は、「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど天候が変わりやすい出身地・石川県での幼少期の遊びに由来している。傘の先端に取り付けられた小型カメラは、不安定に揺れる作家の姿を捉えると同時に、倒れ込んでいる路上生活者やそれらに無関心に歩く観光客など、パリの多様な人々の姿も捉えている。バランスを失って傘を落とすシーンはスローモーションで編集されている。

しかし、このパフォーマンスは予期せぬ形で幕を閉じる。シャトレ広場周辺でパレスチナ連帯を呼びかける集会を制止しようとする機動隊員の封鎖に遭遇し、それ以上先に進むことができなかった。山口は、アーティストとして異国の地で新たな生活を始めることへの不安と、社会の不安定さを、バランスを取ろうとする一本の傘に象徴的に凝縮させている。